今シーズンの注目ピックアップ 「2024 パリ国際ランジェリー展」レポートを追加しました
今シーズン注目のピックアップ
武田尚子(ジャーナリスト)
「2024 パリ国際ランジェリー展」
改めて、「女性らしさ」を問う

今年も 1 月中旬に開催された「パリ国際ランジェリー展」は、世界から製品 250ブランド、素材 170 社が出展。来場者は 3 日間で延べ 16000 人以上(いずれも主催者発表の数字)という、前年並みの規模となりました。
近年の重要課題であるサスティナブル、ボディポジティブ、ジェンダーフリーといった意識は、当たり前のものとしてすっかり定着し、有力メーカーは社会的責任としてエコ認証の明示が欠かせないものとなっています。
今回の特徴的な事象をいくつか紹介しましょう。
”サスティナブル“定着の中で天然素材にも注目
リサイクル素材やパルプ由来の再生繊維など、持続可能な素材開発は引き続き進化しながら継続していますが、今回は改めて天然素材にも目が向けられていたといえます。
中でも新鮮だったのがヨーロッパで長い歴史を持つリネンで、その環境に優しい生産背景が注目を浴びていました。インナーウエアに最適の機能性を備えたリネンニットで新規出展を果たしたベルギーのブランドが登場しています。
また、シルクも改めて見直され、正統派シルクのスリップやナイトウエア、自由なスタイルが表現できるアコーディオンリブシルク、さらにモダールとの混紡と、肌ざわりの魅力が広がりを見せています。


他にも、初出展の若い独立系ブランドの中では、実験的な取り組みが見られました。キャスターオイル(植物の種子から抽出されたヒマシ油)から得られる生物由来のポリアミドの生地を採用しているフランスのブランドや、白い生地をコーヒーや墨で染めるという試みをしている日本のデザイナーブランドはその代表例です。

セダクションの傾向の一方で、シェイプウエアに脚光
多様性を重視する大きな社会的なうねりの中で、あらゆる体型が美しいというボディポジティブの意識が定着し、ファッションショーの中でもふくよかなプラスサイズ、またシニアモデルも当たり前のように登場するようになりました。
自分自身に自信を持った女性たちは、より自分らしく、セクシーに装いたいという要求が生まれ、ランジェリー全体としてはより“セダクション”(誘惑、魅了)の傾向を強めているといえます。
その一方で、今回の大きな話題となっていたのは、シェイプウエアの復活です。
パリの有力百貨店であるギャラリー・ラファイエットのランジェリー売場において、アメリカのセレブ、キム・カーダシアンによる「SKIMS(スキムズ)」が売上トップの快進撃を続けていることから、もともとこの分野のパイオニアであるワコール(ヨーロッパ現地法人)やその他の有力ファンデーションブランドが、シェイプウエアのリニューアルを打ち出していました。

ジェンダーフリーの時代に、いやジェンダーフリーの時代だからこそ、改めて女性らしさやセクシーさ、ひいては女性の生き方が問われているのかもしれません。女性らしさやセクシーさこそ、まさに多様であって、価値観はさまざまであることを痛感した今回の展示会でした。

武田尚子(たけだ なおこ)
ジャーナリスト。
ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988 年にフリーランスとして独立。
ファッション・ライフスタイルのトータルな視野の中で、インナーウエアの国内外の動向を見続けている。世界のインナーウエアトレンドの発信拠点「パリ国際ランジェリー展」の取材を 1987 年から始め、 年 2 回の定期的な海外取材は35年以上にも及ぶ。
2021 年 3 月、家で着るアパレル(ナイトウエア&ラウンジウエア)の変遷をたどった『もう一つの衣服、ホームウエア』(みすず書房)を発刊。