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今シーズンの注目ピックアップ「2025年9月のパリに見るランジェリー動向」レポートを追加しました

今シーズン注目のピックアップ

武田尚子(ジャーナリスト)
現地レポート・写真 磯部美保

2025年9月のパリに見るランジェリー動向

~水着中心が定着した夏展と、秋物立ち上がりの百貨店売場~

合同「WHO’S NEXT」の会場入り口
総合展「WHO’S NEXT」の会場入り口 

「パリ国際ランジェリー展」の夏版に当るのが「CURVE PARIS(カーヴ・パリ」展と素材展「アンテルフィリエール」です。今年は主催者MSNによるファッション合同展「WHO’S NEXT(フーズネクスト)」に完全に吸収されるかたちでの開催になりました。9月6日から3日間、場所はポルトドベルサイユ国際見本市会場の1号館。昨年は辛うじて製品展(CURVE)にランジェリーブランドがいくつか見られましたが、今年は水着&リゾートウエア一色となり、ランジェリーの出展はほとんどなかったといってもいい状態でした。有力老舗ブランドも、個性派ブランドも、大きな展示会出展は1月のみの年1回という意識が定着したといえます。

一方、小売市場に目を向けると、9月は2025年秋冬物スタートの時季です。後半では、夏のバカンス明けの百貨店ランジェリー売場の様子を紹介しましょう。

WHO’S NEXT全体に共通するトレンドコーナー

ファッションの「フーズネクスト」、アクセサリーの「ビジョルカ」、さらに新しく加わったインテリアの「ホーム」と共に、総合展「WHO’S NEXT」の中に一体となって取り込まれたといえる、今回の「カーヴ・パリ」と「アンテルフィリエール」の夏展。 “Where Summer Never Ends(夏が終わらないところ)”という全体テーマのもと、夏のリゾートを演出するアイテムであふれた会場は多くの人で賑わっていました。主催者発表によると、「WHO’S NEXT」全体では62か国から1300社が出展し、来場者も昨年より3%増となったそうです。

製品を欠きながらも存続しているランジェリーの素材展「アンテルフィリエール」は、コンセプトパリ(Jos Berry主宰)プロデュースによる恒例のトレンドフォーラムがなく、その代わりに「SOURCINGandSOLUTIONS(ソーシング&ソリューション)」と名づけられたトレンドコーナー(Vanessa Causse監修)が提案されていました。ここでは、衣料品、ニットウエア、ランジェリー、皮革や副資材、ジュエリーといった5つのジャンルごとに、出展者からセレクトした素材をそれぞれのテーブルの上に展示するというもので、会場全体への波及効果にも一躍を担っています。

「SOURCINGandSOLUTIONS」のランジェリーコーナー 
素材展アンテルフィリエールへの出展を続けているユタックスのブース

コンセプトパリのトレンド提案は、10月中旬に上海で開かれる「アンテルフィリエール」の方に比重が移っているようです。いずれにしても、ランジェリーに関しては年明け1月の「パリ国際ランジェリー展」に期待というところです。

全館イベントで盛り上がる「ル・ボンマルシェ」

パリを代表する高級百貨店「ル・ボンマルシェ」は、いつも旬をとらえた全館イベントの開催で話題ですが、今回は9月の新年度・新学期に合わせ、有名なテレビ司会者であるアントワーヌ・ド・コーヌがデザインした「Rock’n’Drôle(ロックンドロール)」と題された、サウンドとビジュアルの没入型イベントが10月19 日まで開かれています。「ロックンロール」ならぬ「ロックンドロール」。「ドロール」とはフランス語でいう「おもしろい、愉快な」という意味で、今回はそれをロックと掛け合わせたもの。これまたフランス人なら誰でもよく知っているというイラストレーターのZEPによるビジュアルが館内各フロアの至る所で見られ、館内はポップな躍動感にあふれています。

もちろん、ランジェリー売場も例外ではありません。売場中央のポップアップコーナーには、「LIVY(リビィ)」と「リズ・シャルメル」という同店でも人気の2ブランドが選ばれ、凝ったディスプレイが施されていました。もともとアヴァンギャルドでロックなムードのある「「LIVY(リビィ)」はもとより、マダム御用達の雰囲気があるエレガントな「リズ・シャルメル」も、ヒョウ柄のカーペットの上に、ギターと椅子が置かれ、どうぞ自由に弾いてくださいという演出です。

ランジェリー売場中央のポップアップコーナー

それ以外も、「エレス」「ヴァニナ・ヴェスプリーニ」といったラグジュアリーなランジェリーブランドがロックのディスプレイを行っていました。いずれもこのイベントの中心は、フランスの高級ランジェリーブランドが担っています。

「エレス」ではマネキンがドラムやギターを

繊細なレースや刺しゅう、赤、紫、黒といった豊かな色合いにシルクの光沢、それらランジェリーの魅力が不思議にロックとあいまったものになっています。ユーモアや情熱にあふれたロックの世界が、ブランドの違いを超えて上質なランジェリーにすっかり溶け込んだものとなっていました。

相変わらず、「SKIMS」人気が続くパリの百貨店。目新しいブランドやショップもあまり見当たりませんが、このように人々を引きつける演出が求められています。

武田尚子(たけだ なおこ):ジャーナリスト
ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988 年にフリーランスとして独立。ファッション・ライフスタイルのトータルな視野の中で、インナーウエアの国内外の動向を見続けている。
世界のインナーウエアトレンドの発信基地「パリ国際ランジェリー展」の取材を1987 年から始め、定期的な海外取材は 40 年近くに及ぶ。定点観測の視点から業界の変化を伝えるために、毎年 3 月に「トレンドセミナー」を開催。
主な著書は、下着デザイナー、鴨居羊子の評伝『下着を変えた女――鴨居羊子とその時代』(平凡社)、『もう一つの衣服、ホームウエア――家で着るアパレル史』(みすず書房)、『女三代の「遺言」』(水声社)など。