withコロナ時代における下着の役割

企業の視点

新しいコミュニケーションの方法を模索

新型コロナウイルスとの共存生活が長期化するなかで、ボディファッションの役割、さらには生き残りをかけた企業や業界の姿勢が問われています。
百貨店をはじめ小売業の営業が再開した後も、以前のような買い物の習慣が戻らない中で、EC(ウェブストア)の環境整備が急務となり、実際にEC 比率が大きく伸びていることは周知の事実です。
また、国内外に共通し、次シーズンの方針や新製品を発表する従来の展示会の機会が絶たれたことから、時期をずらしたうえで、アポイント制の内見会やオンラインを活用した商品説明に切り替えるという方法をとったところが少なくありません。
このようななかで、世界のインナーアパレルがどのような施策を行い、実際にどのような商品がユーザーに受け入れられているかを見ていきたいと思います。

持続可能な施策に取り組む

今回のコロナという前代未聞の事態に際し、個人ひとりひとりが、これまでの生き方や働き方、生活を見直しているように、企業もこれまでの反省をもとに基本に立ちかえり、気がつきながらも着手できていなかったことに改めて取り組んでいるのではないでしょうか。
まず、商品供給のサイクルの問題。大きく年2 回の展示会に照準を合わせた商品計画をもとに、シーズンごとに目先の変わった新製品を(時にはマンスリーMD で)提案し続けるというのがこれまでのやり方でしたが、長く継続して販売できる定番やシーズンレス商品に重心が移っているといえます。
消費者に求められているものをしっかりおさえ、SKU は絞り込んだうえで、例えばサイズ展開を充実させるといった施策も見られます。
いずれにしても、2000 年前後から顕著になっていた衣類全体の過剰供給の問題にメスを入れ、無駄を極力少なくする、真に「サスティナブル」な産業をめざす絶好の機会が到来しているといえるでしょう。

「ステイホーム」の新習慣に対応

商品面においては、「ステイホーム」という新しい生活習慣に対応するものがクローズアップされています。外出用より家用、ハレよりケというように、ボディファッションもその主軸が移っています。
基幹アイテムのブラジャーをとっても、家で過ごすためのリラックスしたものが求められ、まさに近年、市場で伸びていたノンワイヤーブラや着け心地の楽なものが一挙に主役に躍り出たという感じです。
だが、一方では、バストラインや体型が崩れることへの恐れもあり、補整機能へのニーズが高いことも決して無視できません。コロナ禍で大ヒットを見せているナイトブラなどはその代表です。
また、夜寝る時のパジャマやナイトウエアはもちろんのこと、家で過ごすルームウエアにも目が向けられています。ルームウエアといっても、ただくつろぐためのものではなく、リモートワーク(在宅勤務)のための仕事着の側面も重要。ことにオンラインによる会議や受講の機会も増えてくると、オンとオフの線引きも従来とは大きく変化しています。

ボディファッションの使命を考えると、実用性や機能性に限らず、未来への希望につながるものをいかに開発し、提供できるか。
あらゆる人が心身ともに健康な生活を送るために、その近くに寄り添っていきたい――。顧客とのコミュニケーションを密にとりながら、この難局を超えていかなくてはならないと切に願っています。

顧客の視点

ボディファッションでウィズコロナを快適に!

私たちの生活が大きく変化した2020 年も、冬から春へ、夏から秋、そして再び冬へというふうに、季節がめぐっています。
先行きの見えないなかで、からだと心の健康に不安をかかえていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。
家の中で過ごすことが多くなると、普段の服装やその下に着けるものも以前とはだいぶ違ってきているはずです。
実用性はもちろんですが、気持ちをうまく切り替えるツールとしても、ボディファッションのいろいろな役割に目を向けて活用してみませんか。

ノンワイヤーブラの多様化が進行

近年、選択肢がますます広がっているのがブラジャーです。
家で過ごす時やリラックスしたい時は、ノンワイヤーのソフトなタイプ。外出する時は、ワイヤーフォームを中心にしたバストをきれいに整えてくれるタイプ。という具合に、その日の目的に応じた機能性やデザインが選べるようになっています。
特に前者のノンワイヤータイプは、ストレスフリーのフラットなものから適度な補整力のあるものまで、また綿混やレース使いなど素材やデザインも実にさまざまです。これは通常のブラジャーのアンダーバスト&カップサイズではなく、S・M・L といったサイズが基本になっているものが多いので、店頭とは違って試着のできないオンラインショップ(EC)でも安心して購入することができます。今シーズンは、より幅広いサイズをカバーする伸縮性に富んだブラも登場している程なので、この傾向は続きそうです。
家でいつも楽にしているとバストラインが崩れるのが心配という人に、最近、大人気なのが就寝時のためのナイトブラ。こういうものも利用しながら、自分自身のライフスタイルや体型に合わせて、上手にバストケア、ボディケアをしたいものですね。時々は、信頼できるアドバイザーの店でサイズを確認することも忘れずに。

ホームウエアやマスクにも注目したい

また、家で過ごす時間が増えるにしたがって、ルームウエアやラウンジウエアを見直したという人も少なくないでしょう。
リモートワークで時にはオンライン会議もとなると、ただくつろぐだけの服装というわけにはいかなくなります。かといって出社時と同様というのもあまり快適とはいえませんね。そういう意味で、家でのワークウエアというような新しい領域に対応するアイテムにも目が向けられています。そこそこきちんとした感じがありながら着心地のいいジャケットやボトムは、ナイトウエアメーカーも提案し始めています。
家での生活の中でも、何度か着替えることで気持ちの切り替えをするということも必要になってきます。そういう意味で、寝るためのスリーピングウエアも大切で、快眠のためのパジャマに限らず、やさしい気持ちになれるエレガントなものを取り入れてみてはいかがでしょうか。
もう一つ、皆さんにお伝えしたいのは、多くのボディファッションメーカーが、それぞれの素材開発や物づくりのノウハウを活かしたマスクを作っていることです。これは高温多湿の風土を背景にした、日本の肌着文化のゆたかさを反映したもので、マスクの肌触りや使いごこちを通して、お気に入りのインナーウエアを見つけてみるのもいいかもしれません。

ボディファッションの使命を考えると、実用性や機能性に限らず、未来への希望につながるものをいかに開発し、提供できるか。
あらゆる人が心身ともに健康な生活を送るために、その近くに寄り添っていきたい――。顧客とのコミュニケーションを密にとりながら、この難局を超えていかなくてはならないと切に願っています。

プロフィール写真

Profile

武田尚子(たけだなおこ)

ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988年にフリーランスとして独立。
ファッション・ライフスタイルトータルかつ文化的な視点から、インナーウエアの国内外の動向を見続けている。
特に世界のインナーウエアトレンドの発信拠点「パリ国際ランジェリー展」の取材を1987年から始め、年2回の定期的な海外取材は既に連続30数年に及ぶ。