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今シーズン注目のピックアップ
武田尚子(ジャーナリスト)
2025 パリ国際ランジェリー展」レポート
時代の節目における世界の動きを反映
今回の製品フォーラム「the Lingerie Shop(ランジェリーショップ)」。
従来のランジェリー市場が苦戦を強いられている中でも、あえて仕入れ型下着専門店を想定した売り方のアイデアを提案今回の製品フォーラム「the Lingerie Shop(ランジェリーショップ)」。
世界のランジェリー業界の縮図ともいえる「パリ国際ランジェリー展」。今年も1 月中旬に、世界 37 か国から製品 220 ブランド、素材 180 社を集めて開催されました。来場者は 3 日間で延べ 16,000 人という、前年とほぼ同じ数字です。
メインイベントであるファッションショーが従来より1種類減って計2種類になったこと以外は、目立った変化がないようにも思えた今回ですが、今の世界情勢を反映させるように、アメリカとヨーロッパの眼に見えない「両極性」を感じないわけにはいきませんでした。その中での日本の立ち位置にも思いを馳せながら。
コロナ禍をはさんだこの5年、いやその前 10 年程前からの主要テーマであった「多様性」「サスティナブル」はすっかり定着し、今回はある意味で次のステップに移る踊り場のような時期であったと言えるのかもしれません。
有力フランスブランドに見る底力
今、ヨーロッパのランジェリー百貨店市場は、アメリカブランドの「SKIMS(スキムス)」旋風が吹き荒れています。パリの主力百貨店である「ギャラリー・ラファイエット」で 2021 年秋にヨーロッパ上陸を果たした後、同店売場トップの売り上げを続けているのに続き、老舗の「ボンマルシェ」も「ラペルラ」撤退後に、昨年末、「SKIMS」を導入しました。
こういった百貨店に古くから売場を展開しているフランスの有力ブランドは、アメリカらしいベーシックを追求する「SKIMS」を意識し、対策を講じながらも、それぞれ自社の遺伝子や遺産を重視し、逆にフランスならではの強みを発揮していこうという姿勢を打ち出していたのが印象的です。「CHANTELLE(シャンテル)」ブランドを核とするシャンテル社は、バランスのとれた 5 グループ体制の中でも、ヒットを続ける「ソフトストレッチ」の次なる取り組みとして「SoftStretch POWER(パワー)」ラインを発表。ボンディング技術によるライトシェイピングともいえる新しいカテゴリーを拡大しようとしています。
ボンティング技術を活かしたフランス・シャンテル社の新ライン「SoftStretch POWER」
AUBADE(オーバドゥ)」は引き続き、細やかなディテールや新鮮なスタイルを追求したセダクション路線が明確です。
手工芸的なデザインが得意な「LISE CHARMEL(リズ・シャルメル)」は、高級化を推進する中でも、プレタポルテやオートクチュールのモード性を取り入れようとしています。
高級路線を進める「LISE CHARMEL(リズ・シャルメル)」はモードとの融合を強化
定評のあるシェイプウエアを展開する「WACOAL(ワコール)」、また「SIMONE PERELE(シモーヌ・ペレール)」は、シェイプウエアを定番商品として継続させながらも、新製品としてはむしろヨーロッパらしいレース使いの繊細でエレガントなラインに力を入れていました。
日本からの新規出展もコンスタントに
出展者全体の3割ほどが新規と報告されている割には、なかなか目新しいブランドに出会えなくなっているのが実情です。若いデザイナーブランドを集めたエリアをはじめ、クラウドファンディングのエリアも継続していますが、クリエイティブな先端ブランドを集めて注目を集めていたエリア〈EXPOSED〉は、ややピークを過ぎた感がありました。
その中でも、日本からは近年コンスタントに新規出展者があるのは元気づけられます。今回は若手デザイナーによる「ラシレーヌ」と「ユービカワノ」、そしてマシュマロガーゼのパジャマが人気の「ウチノ」の3社。昨年の「アロマティーク」も引き続き出展しています。
「ラシレーヌ」は長浜に本社のあるアビタクリエイトが展開する、同じ長浜出身のデザイナー、吉持玲沙さんのブランドです。
「LA SIRENE(ラシレーヌ)」の吉持玲沙さんと、ファッションショーに登場したコレクション
京都エスモードを卒業後、「キッドブルー」の販売に携わった後に独立。コロナ禍の当初はマスクの企画販売からスタートし、そのブランド名にあるように「人魚」のようにストレスなく身に着けられる、ファッション性の高いランジェリーをつくりたいという願いをかなえました。
一方の「ユービカワノ」は、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツでテキスタイルを学んだ河野有美さんが、ロンドンならではのカルチャーに触発され、前衛的なランジェリーを作り初めて 5 年。アートとしてのランジェリーから、徐々に製品化を進める中でも「ポエティックなものを」という思いを込めています。
「YUVI KAWANO(ユービカワノ)」の河野有美さんと、〈EXPOSED〉内のブース
日本国内のインポートランジェリー市場は撤退が相次ぐ状況ですが、逆に国内から海外に出る動きは小規模ながらもこのように続いています。世界的にランジェリー市場は厳しい局面に立たされていますが、こうして新しいブランドが登場しているということは、業界にとっては大いなる希望といえます。
武田尚子(たけだ なおこ):ジャーナリスト。
ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988 年にフリーランスとして独立。ファッション・ライフスタイルのトータルな視野の中で、インナーウエアの国内外の動向を見続けている。
世界のインナーウエアトレンドの発信基地「パリ国際ランジェリー展」の取材を1987 年から始め、定期的な海外取材は 40 年近くに及ぶ。定点観測の視点から業界の変化を伝えるために、毎年 3 月に「トレンドセミナー」を開催。
主な著書は、下着デザイナー、鴨居羊子の評伝『下着を変えた女――鴨居羊子とその時代』(平凡社)、『もう一つの衣服、ホームウエア――家で着るアパレル史』(みすず書房)、『女三代の「遺言」』(水声社)など。