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今シーズン注目のピックアップ
武田尚子(ジャーナリスト)
「2023 パリ国際ランジェリー展」
次世代育成で「持続可能」な業界を
昨年 6 月にリアル(フィジカル)で久々の再開を果たした「パリ国際ランジェリー展」。今回は新しい主催者のもと、本来の時期である 1 月中旬にもどり、世界から(製品・素材合わせ)420 の出展者、3 日間で延べ 15000 人以上の来場者を集めて、盛況のうちに閉幕しました。
世界のランジェリー業界の縮図ともいえる同展では、確実に世代交代が進み、新しい時代がやってきていることを痛感しました。
インプットからアウトプットの時代へ
日本からの来場者はまだまだ限られていましたが、今回、際立っていたのは、日本からの出展者が増えたことです。特に女性の起業による独立系デザイナーの新規出展が3ブランド(「PUNTOE(プントゥ)」 「MAIMIA(マイミア)」 「NAGISA PARIS(ナギサパリ)」)もあり、製品では日本から(海外法人のワコールヨーロッパをのぞき)合計 5ブランドがそれぞれに個性を発揮していました。新規出展の多くはブランドスタートから 5年、年代は 30代が中心となっています。
「NAGISA・PARIS」「MAIMIA」
「パリ」という場が、従来のように情報を得るための視察という目的だけではなく、自ら出展者として参加することによって存在意義を確認し、世界の市場に進出するきっかけとなる舞台に変化しているのです。
コロナによる足止めがかえって充電や準備期間となり、その間に進めていたデジタルマーケティングが功を奏したといえるのではないでしょうか。
今回の「パリ国際ランジェリー展」における EXPOSED ゾーンの人気拡大にあらわれているように、個人と個人が直接つながるような小さなブランドにとっては非常に追い風の時代となっていることは間違いありません。
新しい時代に向けた前向きな取り組み
では、ランジェリー全体としてはどういう動きをしているのでしょうか。《サスティナブル》《ボディポジティブ》《ダイバシティ(多様性)》といったここ数年のキーテーマが定着し、完全に主流の考え方に浸透してきたといえます。
日本的にいえば、《SDGs》や《フェムテック》の領域ですが、企業の社会的責任がより重視され、地球環境問題への意識からリサイクル素材を使った製品も着実に増えています。
「地球にやさしいものは肌にもやさしい」というわけです。これらは若い独立系ブランドにとってはそもそも当たり前ですし、伝統的なナショナルブランドメーカーの取り組みも進んでいます。
さらに、《ジェンダーフリー》の典型例として、レディスのブラジャーとメンズのブリーフに同じレースを使ったものなどが注目され、パジャマブームも再燃しているように見受けられました。
今、社会をリードし、新しい富裕層の中心ともなっているのが 30 代ではないかと思います。その次のZ世代も視野に入れたところで、今回の「パリ国際ランジェリー展」では若い世代を意識したデザインが多く見られました。セクシーで軽く透ける素材、ノンワイヤーのソフトなブラ、ハイレグなどボディラインを強調するような 80 年代トレンド、多用な場面で着用できるマルチファンクショナルといった商品傾向にも、それは反映されています。
国内においても次世代の育成は共通の課題です。もちろん、体型の変化が気になる世代やシニアへの対応も欠かせませんが、ボディファッション(インナーウエア)業界が健全に持続していくためには、いろいろな意味で次世代の育成にもっと目を向けることが重要なのではないかと思います。
※ランジェリーにおいても”ジェンダーフリー”の傾向が見られる。レディス、メンズ双方に同じエンブロイダリーレースを使った「Lousia Bracq」(写真は「2023 パリ国際ランジェリー展」主催者提供)
武田尚子(たけだ なおこ)
ジャーナリスト。
ボディファッション業界専門誌記者を経て、1988 年にフリーランスとして独立。
ファッション・ライフスタイルのトータルな視野の中で、インナーウエアの国内外の動向を見続けている。世界のインナーウエアトレンドの発信拠点「パリ国際ランジェリー展」の取材を 1987 年から始め、 年 2 回の定期的な海外取材は35年以上にも及ぶ。
2021 年 3 月、家で着るアパレル(ナイトウエア&ラウンジウエア)の変遷をたどった『もう一つの衣服、ホームウエア』(みすず書房)を発刊。